黄泉返り

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そう、この人は"お父さん"だ。 自分で発した"お父さん"という言葉に違和感を感じて、内心首をかしげる。だけどやっぱり、この人は自分の父親に違いない。幼い頃に母が亡くなってから男手一つで育ててきてくれた唯一無二の父親だ。例え見知らぬおじさんに手を握られているような奇妙な感覚がしても。 この部屋は、私の部屋だし、ちょっと離れて茫然と佇んでいる女の子は私の彼女だ。 「あぁ、目が覚めたばかりなのに、父さんだけ興奮してごめんな。混乱するよな。順を追ってちゃんと説明するから」 お父さんの話では、私は高校を卒業したこの春、交通事故に遭い、大きな怪我こそなかったが、半年ほど意識を失っていて、死ぬほど心配したという。それが今、 奇跡的に目覚めたというわけだ。 ということは、季節は夏だな。 白衣の男性は医者らしい。なんでも、脳波を測定したら今日目覚める予兆があったとか? 私に事故の記憶はないが、この大袈裟な反応からみて奇跡の生還というのは本当のことなのだろう。 なんだか腑に落ちないが、一応はうなづく。 でも、やっぱり気になることは質問しようかな。
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