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お父さんの説明が終わると、奈津子は黙って私を抱きしめて泣いた。
あたたかくて、やわらかくて、奈津子の長い髪からは花のような良い香りがしたけれど、私はどう反応していいのかわからなくて、ただベッドカバーの模様を見ていただけだった。
腕は抱き返すのも躊躇われて、だらんと両脇に垂らしている。
「失礼。そろそろいいですか?」
抱きつく奈津子に医者が割って入って、私は解放された。
医者は、冷静に診察した。
聴診器で胸の音を聴いたり、私に腕を曲げたり伸ばしたり、立って歩かせたりしたあと、いくつか質問して記憶に齟齬がないか確認した。
一通り終わると「問題ないようですね」と、にんまりした。
細いシルバーの金属フレームの奥の目を満足げに細める。なんだか奇跡の患者を目の前にした医者というより、実験結果を確かめるマッドサイエンティストみたいだ。
もちろん、結果は成功。
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