黄泉返り

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医者は、目覚めたばかりの私に無理させず、しばらくは安静にさせるように、徐々に環境にならすように、なにかあったら連絡するように、定期的に検診に来るように、などなど指示して去った。 気がつかなかったが、もう夕方だったみたいで奈津子も私に「またね」と言い、お父さんには無言で頭を下げて帰った。 夜は、そのまま部屋でお手伝いさんの丹波さんが作ったお粥を食べて、寝ることになった。 丹波さんは黙々と仕事をして、目を合わせなかった。前からお手伝いさんを雇っていたけど、丹波さんは知らない。私の寝ている間に、前の人から代替わりしたのだろう。 お父さんは別メニューを私の目の前で食べるのも難だと言って、ダイニングで食べたらしい。 寝る前、電気を落とした部屋で、姿見の前に立ち自分の全身を眺めてみた。 窓から入るぼんやりとした光のなか、Tシャツにホットパンツ姿の女の子が立っている。 黒髪を顎のラインで切り揃えたフェミニンなショートカット、身長は大体160㎝くらい(記憶だと161㎝のはず)、猫目がちの二重。 太ってもいないし、痩せてもいない。頬はふっくらしていて、やつれているようには見えない。半年も昏睡していたのに、筋肉が衰えている様子もなく、ちょっと健康的過ぎるくらいだ。 目の前の少女は口をへの字にして、なんだか途方にくれているように見える。そして、目覚めてから目に入るすべての物事と同じように、見覚えはあるけどまったく馴染みがない。 私は本当に半年間、眠っていたの? 私は本当に、小鳥 剛明(ことり たけあき)の一人娘で、辻 奈津子(つじ なつこ)の恋人、小鳥 真冬(ことり まふゆ)なの? 鏡に映る室内は、夏特有の湿り気を帯びて暗く、「実はまだ目覚めていなくて悪夢を視ているんじゃないの」とぽそっと呟いた。
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