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一星は振り返る。
そこに立っている人物を見て、一星の中にある記憶がフラッシュバックする。
「おお。久しぶりじゃのう。
15年ぶり、っといった所かのう」
男は一抹の不安を抱いていた。もしかして忘れられているのでは、と。
だが今の一言でそれは無かったと確信した。
男は嬉しそうに小さく笑う。
「ククク・・・。覚えてくれてて安心したぜ」
「ほっほ。忘れるものか。
お前さんと出会った時の事は、今でも鮮明に覚えとるよ」
───15年前。
二人は出会っていた。
深夜の峠。
砌町の近くにある八重山峠で。
鼓一星は走り屋だ。
それも、今なお現役の。
白の三菱・スタリオン4WDラリー。
ラリーの世界で戦う為のスーパーウエポンである。
試作車の4台。T1、T2、R1、R2。
この4台によって実験と開発が行われ、着々と市販化に向かっていた。
だが三菱社内で、長らく燻っていた不満。疑問や反発が一気に燃え上がった。
そしてついにはスタリオン4WDラリーがグループBに出場する為、市販化生産計画は中止。市販化は無くなった。
しかし試作車による実験は続けられ、1984年には南フランスのミルピステ・ラリーに出場。
R1は見事完走。クラス優勝を果たす。
翌年のマレーシア・ラリーにも出場したが、結果はリタイア。
その4ヶ月後。試作車R2は廃棄処分。潰されてしまった。
残る3台の行方は、明らかになっていない。
詳細な資料も無く、記憶している者も少ない。
一説では、試作車以外にも5台、もしくは20台量産されたとも囁かれているが、現在まで何台残っているかハッキリと分かっていない。
だが1台は、一星の元にやってきた。
ラリーからストリートへ。
姿と舞台を変え、スタリオンは一星の手によって峠を走る事となった。
スタリオンを手に入れてからというもの、一星の走りは更に高度に。更に速くなってしまった。
それは同時に、他の走り屋を置き去りにしてしまう事となる。
数々のバトルで負け知らずとなった一星は、伝説の走り屋と呼ばれるようになった。
そんなある深夜であった。
一星が八重山峠の下りを走っている所。突如として、後方から強い光が差した。
車のヘッドライトである事に、一星はすぐに気が付く。
みるみる内に光は近付き、ついにはすぐ背後に付かれた。
峠で出会った走り屋二人。
一星の心が高ぶる。
シフトダウンしてアクセル全開。振り切りに掛かった。
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