EX.01

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ガードレールに接触しようが、コンクリートウォールを掠めようが、走り屋二人と2台は決して譲らない。 見えない火花を煌々と散らしながら、八重山峠のダウンヒルを走る。 甲高いスキール音が。 大気を震わす排気音が。 体の芯を熱くさせる。 負けたく無いというプライド。 絶対勝つという闘争心。 テンションの上昇に比例して、危険度も上がる。 一瞬たりとも気が抜けない。 シビアなマシンコントロールが要求される状況下。 それでもドライバー両者に去来したのは、意外にも穏やかな感情であった。 居心地の良さがあった。 自分はここにいて然るべき。 そんな確信。 リスクを背負って勝ち負けを決める場でありながら、心のどこかでは『ずっとこのまま』続いてほしいと願っている。 次第に走りも変化していく。 アグレッシブなコーナーワークを見せていたスタリオンだったが、少しずつ見せつけるようなドリフトをするようになる。 後ろの車もそれに合わせる。 スライドアングルとスピードをスタリオンとシンクロさせ、まるでドリフトコンテストの様相を呈していく。 『どうだ凄いだろ』 『いや俺の方が凄い』 まるで新しいオモチャを見せつけ、比べあう子供のように、無邪気な走り。 近距離でのドリフト合戦は、麓に到着するまで続いた。 しかしそれでは終わらない。終われない。 即座にスピンターンし、前後を入れ換えてヒルクライムに入る。 ───それから何本も走った。 それでも決着は着かなかった。 それでも両者、互いに身を引いた。ガソリンとタイヤが限界だった。 スタリオンの背後を走っていたのは、青い日産フェアレディZ S30Z。 スタリオンよりも少しだけ古いスポーツカー。 しかし一星にはわかった。 音だけでも分かる、その車の雄弁なまでの存在感。 普通のハズがない。 そんな車に乗るあの男も、普通では無い。 小さくなっていくZのリアテールを見つめながら、一星はまたどこかで会えると、そう思っていた。 そんな気がしていた。 ───しかしその夜以降。一星がZと出会う事は無く、噂の一つも聞くことは無かった。 それから暫く経って、一星は走り屋を引退した。 伝説は、幻となって消え去った。
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