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実に25年ぶりの再会であった。
あれからお互い歳をとったのだと、感慨深く思った。
「俺に心残りがあるとしたら、あの時の決着がついてねぇって事だ」
笑みこそ浮かべているが、男はどこか苦々しい様子で告げる。
対し、一星は愉快そうに笑みを浮かべた。
「ほっほ。なんなら今夜にでもワシとやるかのぉ?ワシは構わんぞ?
最近現役復帰してなぁ」
唐突に沸いて出た一星の提案。
はいよろこんでと行きたかったが、男にはその提案に乗れない理由があった。
男はため息を一つ溢し、口を開く。
その表情は寂しげで、悲しみが滲んでいた。
「折角のお誘いだが、無理だ。時間がねぇ」
「そうか・・・。それは残念じゃのう」
「悪いな。まぁ代わりといっちゃあなんだが、この後面白い奴らが来る。
そいつらと楽しんでくれ」
「ほぉ。お前さんがそこまで言うのなら、確かに楽しめそうじゃのう。
して、どんな奴らなのかの?」
その一星の問い掛けに、男は不敵に笑った。
右手に持ったタバコを口元に持っていきながら、男は答えた。
「なに、俺のガキ共さ。
俺の断りも無く、勝手に走り屋になりやがったクソガキ三人だ」
「ほっほ!お前さん子供がおったのか?そしてその子供達も走り屋と?
血は争えんのう!」
愉快そうに。楽しそうに、一星は笑う。
自分と引き分けまで持ち込んだ男。
その男の血を受け継ぐ3人の子供。
おまけに、これからやってくるというではないか。
これが楽しみでなくて何と言うのか。
すると、男は不意に空を見上げた。
「ああ、そろそろ時間だな。
悪いな。俺いくわ」
「ん?そうか?残念じゃのう。もっと話たかったんじゃが」
「悪いな。まぁ、そう遠くない内にまた会えるだろ」
踵を返し、手を軽く振りながら、男は立ち去ろうとする。
「まぁ待て。せめて、名前くらいは教えてくれてもいいじゃろ?
ワシは鼓一星じゃ」
一星は慌てて呼び止め、男に名乗った。
あの時、お互いに名乗る事なく走っていた。
男は振り返らずに告げた。
「俺の名は、昭俊。
───青山昭俊(アオヤマ アキトシ)だ。
・・・じゃあな」
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