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箱の中で鐘の音を聞いていた。いや、聞いていたというよりは見ていた。目にしていた。感じていた。色として捉えていた。
本当か?
鐘が鳴る。鳴っていた。一つ、半分、四分の一、八分の一、十六分の一。
鐘が鳴る。鳴っていた。二つ、四つ、八つ、十六、三十二。
それから……
鐘の音が割れて砕けて、でも塊になって目の中で奥で、うおおん、わおおん、と鳴っていた。鳴り続ける。それをわたしが見ている。聞いている。感じている。色として捉えている。
本当か?
それから意識が遠退いて、また近づく。窮屈だ。怠い。弛緩する。痺れてきた。それで目を開けると、そこは箱の中ではなくて、四角い壁があって、ベッドの上なだけで、窮屈な掛け布団の下で、頭がぼおっと怠くて、目覚めたばかりなのに全身が一様に痺れていて、疲れていた。
夢の中のように人が消えては現れる。時には早く、時には鈍く…… 尾を引きながら消えては現れる。それでもう一回目を開ける。意識は戻らない。戻るはずがない。夢の中に忘れてきたのだから……
あはは あはは あはは
わたしはがらんどうだ。錆びて腐った鉄のパイプ。可塑剤が抜けた合成樹脂の割れた筒。それが動くんだよ。
あはは あはは あはは
掠れた声を上げて笑うと雲のように霧のように靄のように流れていた人影が、びくん、と立ち止まり、人の形に収斂する。覗き込む。だから、わたしは覗き込まれる。寒いな。熱が出てきた。もう還りたい。
何処に? 無に?
帰りたい。家へ……
まだそれがあるなら家に帰って、そしてまたベッドの上か、または畳の上で寝るのか、倒れるのか? それでは、ここと変わりがない。
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