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アイボリーをベースにした落ち着いた部屋は、ホテルみたいに片付いていた。
窓に近づいてみると、レースのカーテンの向こうに夜景が広がっていた。遠くに立つ、赤い灯りを頂上にともしたビルの群れ。眼下を走る光の帯が、ちらっと見えた。電車だろうか。
バッグをソファの上に置き、コートを脱いだところで、奈緒のスマホが鳴った。本多さんから連絡が行ったのかもしれない。
──ごめんね、怖い目に合わせて。全部、俺のせいだ。
受話器から漏れた最初の言葉が、静かな室内に妙に響いた。
「小山内さんのせいじゃありません。それに、怖くなんかなかったです」奈緒が答える。怖くなかったというのは、たぶん嘘だ。「大丈夫ですから、心配しないで」
少し黙って、相手の話を聞いている。
「何を言ってるんですか。戻って来たりしたら、駄目です。怒りますよ。頼りなく見えるかもしれないけど、少しは信頼してください」
何を言われたのか、奈緒が真っ赤になった。小さな声で言う。
「分かってます、ちゃんと。──小山内さんも、分かっててください」
恋人同士の会話っぽくなってきた。少し遠慮することにして、部屋の端に移動し、ガラスの扉のついたラックを眺める。膨大なCDとDVDのコレクション。凄い。
感心して見ていると、背後から奈緒に呼ばれた。
「投稿は、削除されたそうです。あと、咲山さんにかわってって。いいですか?」
スマホを手渡される。
──咲山さん、巻き込んですみませんでした。
「いいえ。こんなことって、あるんですね」
──今回が、初めてです。ただ、似たようなことが少し前にあって。その近辺に、特定の誰かがいるんじゃないかと疑っています。奈緒には言いましたが、咲山さんも、しばらくその辺には近寄らない方がいいかもしれません。本当に、すみません。
「いいですよ。めったにない経験だったと思えば」亜矢子は笑った。「奈緒だけの時じゃなくてよかったです。世慣れないとこあるし」
車の中からずっとしょんぼりしていた奈緒が、一瞬目を丸くして、それから頬を膨らませた。元気が出てきたかな。
「あ、ふくれてる。ぷぷぷって」
ずっと深刻な口調だった小山内氏が、電話の向こうで笑った気配がした。
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