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   ***  シャワーを浴びて、微かに残った感触を洗い流すと、ようやく気分が落ち着いた。  Tシャツに着替えて、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出し、グラスに注ぐ。一口飲んでから、グラスを手に持ったままソファに移動し、深く腰かけた。  背もたれに頭を預ける。ローチェストの上に置いた時計のデジタル表示が目に入った。  午前2時。妙な時間に起きてしまったが、もう眠れる気がしない。あの夢の続きを見てしまいそうで怖いというのもある。  ベランダの向こうに、街の明かりが見えた。  地上三十七階──。  本当は、大きな樹が植わった庭とか、土の匂いとか、そんなものが好きなのだが、自分にとってそれ以上に重要な理由で、この高層階の部屋を選んだ。  一階には、二十四時間スタッフが待機して、人の出入りをチェックしている。エレベーターに乗るには、カードキーが必要だ。廊下にはいくつもの監視カメラがあり、そちらも常にモニターされている。  この部屋にいれば、もう決してあんなことは起こらない。その安心感があるから、眠ることができる。  聡は、立ち上がって、オーディオのスイッチをいれた。ガラスの扉がついたCD専用の棚から、一枚を選び出す。北欧在住のピアニストのジャズ。真夜中に聞くにはちょうどいい。  スピーカーから、小さな音が流れ始めた。ソファの背にもたれて目を閉じた。
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