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ベースの山辺とは、大学で出会った。
その頃、聡は、ひたすら曲を書き捨てていた。
メロディーが浮かんだら、書き留めて詞をのせる。書いている間は、架空の楽器が頭の中で音楽を奏でる。書き上がったら、すっきりして、箱に放り込んで忘れる。その繰り返し。
曲をつくることは、その時々にとらわれていることを吐き出すための、極めて自分本位な精神安定剤のようなものに過ぎなかった。
自分の曲を演奏したり、ましてや歌うことなんて想像したこともなかった。聡は、どちらかといえばおとなしい学生で、目立つことは好きではなかった。
いつからそんなことを続けていたのか、はっきりとは思い出せない。
中学生くらいだったかもしれない。最初は、ノートに詩のようなものを書きつけていた。もちろん、恥ずかしくて誰にも言わなかった。
そのうち、何かもの足りなくなって、五線紙にごちゃごちゃと書き留めるようになっていった。小さい頃、姉と一緒にピアノを習っていたので、音符には慣れていた。
やがて、大学に入り、地元を離れて一人暮らしを始めた。
たまにピアノにさわっていたのに、音が出るものがなくなったのが寂しくて、バイト代でアコースティックギターを買った。ギターは場所も取らないし、値段も手頃だった。
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