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――愛する主よ、私に力をお与えください。
帰る道を失った時、心が暗闇に囚われる時、
心を鎮め道を切り開く力をお与えください。
私たちが行く道の先に希望をお与えください――
始めは控えめにコンコンとノックされていた。でも、その音は次第に大きくなり……今では扉が、壊れるのではないかと思うくらいの力でガンガン叩かれるようになった。今ではその音を聞きつけて、大人だけではなくぐっすり眠っていた子供たちも起き出してきた。
嫌な気配がする。それは、眷属の気配。その扉を、開いたらいけない。開けたら最後、もう後には戻れない。
「今、開けますので……」
院長が扉を開けた瞬間、赤々と燃える火が飛び込んできた。
人が焦げる臭いがあがる。次いで響き始めたのは、悲鳴と哄笑と絶鳴。火は木製の家具に移り、灯りがいらないほど院内を明るく照らし出した。リノリウムに転がる黒くなった体、紅い水溜り。
――早く、行かないと。逃げないと。早く、速く。
襲撃者の視線を避けて、憂茨(うきょう)は真っ先に花蓮(かれん)の所へ向かった。彼には襲撃者に心当たりがあったから。
誰かの断末魔と狂ったようなに笑う声が、どこからか聞こえた。徐々に自分たちのほうに近づいてくる。
今、施設を襲っているのは人間じゃない。
あの子の持つ、輝く宝石(インタリオ)を狙ってここまで追ってきた、悪魔だ。彼女を――花蓮(かれん)を守らないと。ここで死ぬわけにはいかない。
近くで誰かの断末魔が響き渡った。狂ったような笑い声が聞こえた。そして、また誰かが命を落とした。再び笑い声が聞こえた。
繰り返し、繰り返し、何度も何度も。
圧力――彼らだけが持つ特有の力――魔力が膨れ上がるのと共に、命がいくつも喪われていく。
親を喪い、助けを求め、この孤児院にやっとの思いでたどり着いた彼の、彼女の、大事な命が。自分が命を投げ出せば、何人かは救えるかもしれない。同じ、眷属同士の力をぶつけ合えば。でも、今はそれはできない。花蓮(かれん)を助けないとならないから。
――早く花蓮(かれん)を連れださないと。
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