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「花蓮(かれん)、花蓮。どこにいる?」
「……お兄、ちゃん」
ベッドの下から、ウサギのぬいぐるみを抱いて幼い子供が出てきた。
女の子は、大きな緑色の瞳に大粒の涙を浮かべて、がたがたと震えている。
「ペンダントは? 持ってるか?」
「つけてる。いつも、もってる……」
「ならいい。あれは大事な物だから、失くしたらダメだ」
「うん」
「こわい……」
「問題ない。問題ないから……」
言いながら、花蓮(かれん)を抱き寄せて背を撫でる。少し安心したのか、浅かった呼吸が少しづつ元に戻っていく。
「花蓮(かれん)、ゲームをしようか。いつもやってるやつ」
「いるばしょどこだ?」
「そう。目を瞑って、今自分がいる所をあてるやつ。
今日は花蓮(かれん)からからな。良いって言うまで、目を開けるなよ」
「わかった……」
花蓮(かれん)を抱いて、部屋を出た。近くで話し声がする。女の声だ。緩やかに、歌うように、惨劇を楽しむように。誰かに語りかけている。
――すぐ近くだ。
廊下の曲がり角の先を窺がうと、副院長の腕が転がっていた。
「この辺からだ。気配がする。インタリオの気配が。どこにいるの? どこに隠した?」
「やめ……」
「言えば、助けてあげるわ」
「何も隠していない。ここには、何もない……」
「……命が惜しくないのね。確かにここにあるわ。あれは私たちにとって、とてもとても価値の高い宝石みたいなものよ。特にあのインタリオは素晴らしいわ。潜在的な力が強い……あれを喰べられれば」
「なん、の話を――」
「言いなさいよ、このクズが! なんの力も持たないクズ石風情が私に嘘をつくつもり!?」
「ひぃっ……あっ、やめ――あああああああああああああぁぁぁぁぁ」
何かが、血溜まりにびちゃりと音を立てて転がる。
光を失った瞳が、恨めしそうに瞬きひとつせず、こちらを見つめていた。
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