プロローグ

3/3
前へ
/115ページ
次へ
「花蓮(かれん)、花蓮。どこにいる?」 「……お兄、ちゃん」  ベッドの下から、ウサギのぬいぐるみを抱いて幼い子供が出てきた。  女の子は、大きな緑色の瞳に大粒の涙を浮かべて、がたがたと震えている。 「ペンダントは? 持ってるか?」 「つけてる。いつも、もってる……」 「ならいい。あれは大事な物だから、失くしたらダメだ」 「うん」 「こわい……」 「問題ない。問題ないから……」  言いながら、花蓮(かれん)を抱き寄せて背を撫でる。少し安心したのか、浅かった呼吸が少しづつ元に戻っていく。 「花蓮(かれん)、ゲームをしようか。いつもやってるやつ」 「いるばしょどこだ?」 「そう。目を瞑って、今自分がいる所をあてるやつ。 今日は花蓮(かれん)からからな。良いって言うまで、目を開けるなよ」 「わかった……」  花蓮(かれん)を抱いて、部屋を出た。近くで話し声がする。女の声だ。緩やかに、歌うように、惨劇を楽しむように。誰かに語りかけている。  ――すぐ近くだ。  廊下の曲がり角の先を窺がうと、副院長の腕が転がっていた。 「この辺からだ。気配がする。インタリオの気配が。どこにいるの? どこに隠した?」 「やめ……」 「言えば、助けてあげるわ」 「何も隠していない。ここには、何もない……」 「……命が惜しくないのね。確かにここにあるわ。あれは私たちにとって、とてもとても価値の高い宝石みたいなものよ。特にあのインタリオは素晴らしいわ。潜在的な力が強い……あれを喰べられれば」 「なん、の話を――」 「言いなさいよ、このクズが! なんの力も持たないクズ石風情が私に嘘をつくつもり!?」 「ひぃっ……あっ、やめ――あああああああああああああぁぁぁぁぁ」  何かが、血溜まりにびちゃりと音を立てて転がる。  光を失った瞳が、恨めしそうに瞬きひとつせず、こちらを見つめていた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加