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今日は係長と昼飯を食いに来た。
俺の好きなラーメン屋だ。
ラーメンを半分くらい食べ終えたところで、係長が口を開いた。珍しく慎重な面持ちだ。
「…お前がこの前、風邪で休んだ時の話なんだけどさ」
「はい?」
「川田が変な事言ったんだよ」
絢子さんは一体何を言ったんだ?
何ですか?と言うと、首を傾げながら話し出した。
「珍しく定時で上がるから、どうしたのか訊いたらさ、完璧なお掃除ロボの調子が悪いから早く看病しなきゃいけないっつうんだよ」
お、お掃除ロボ!?
…それは多分、俺の事だろう(泣)
「俺は電気屋に修理出しに行くんだと思ったんだけど、凜にその話すると『彼氏の事じゃないの?』って言うんだよ。…あり得なくね?」
「そ、そうですか?素敵な彼氏がいそうですよ?」
「素敵って…。それはねーわ!だって川田に男って…。どんな怖いもの知らずな奴だよ?もし事実なら、そいつは超が付く程のドMだな!!」
「…違いますよ~!年下の超可愛い彼氏がいそうですよ!」
「そうか?…年下で可愛いねぇ…あ、きっとヒモだな!!そいつ、ニートとか売れないホストとかなんだよ!
何気に川田ってハイブランドばっか持ってんじゃん?鞄ボッテガとか…、手帳エルメスとか…。独りもんの小金持った寂しいアラサー女って事で、顔しか取り柄ない年下男に騙されてんだよ!!ヤバいって!」
「あーた、何て事言うんですか!!」
俺の叫びなど無視して、係長は無駄な心配をしていた。
そこへガラカラと店の扉が開いて、絢子さんが顔を覗かせた。
…てゆーか、あなた…独りラーメンもするんですね。
係長も気づいて、隣の空席に来るよう促した。絢子さんは露骨に嫌な顔をしながら、こっちに来た。
「川田…、お前はもう少し男、いや、人を見る目を養え!」
「唐突に何よ!?その台詞、あんたの嫁にそのまま言ってやりたいわね!遠野のバカと、アホの中村のコンビってほんと最悪!!ご飯不味くなるわ!!じゃあね!」
絢子さんは怒りを露にしながら、離れた席に座った。
「怖っ!…やっぱ、あいつに男なんていねーよな」
「…きっと、年下で可愛くて真面目でナイーブな彼氏がいますよ」
俺は残ったラーメンのスープよりもしょっぱい涙を心の中で流した。
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