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それから6500万年の後…。
メキシコ、化石発掘現場――。
「おい、ケビン!そっちはあとどれくらいだー?」
「もう少しだ!」
地面に掘られた長方形の穴の中から、威勢のよい返事が返ってくる。
ケビンと呼ばれた声の主は、地面に這いつくばり、発掘作業により出た砂塵をハケで払いながら、同じ言葉をつぶやきに変えて繰り返す。
「もう少し…もう少しだぞ…」
慎重に釘とハンマーを操るケビン…。
そして、最後の砂塵を慎重に払い終えると、溜めこんでいた息をゆっくりと吐き出す。
「ふぅ…」
道具をボックスに戻し、肩をまわしてコリをほぐす。
「レックス…か。こんにちは、レックス」
完全体で発掘された化石。
太古の昔、地上の王者となったティラノサウルスレックス。
その“レックス”がこいつの名前らしい。
「よう、終わったか?」
穴の上から、別の男が声をかける。
「ああ、今終わったところだ」
「お疲れさん。おお、見事じゃないか」
「そうだな。見事だよ。隕石の落下地点からこんなに近い距離で完全体が見つかるなど、まさに奇跡だ」
地面に伏した化石。
その姿は、まるで大地に祈りをささげているかのようである。
種族絶滅のその瞬間…。彼はなにを祈ったのであろうか。
「6500万年前は、こいつらが地上を制していたんだよな…」
ケビンは、誰に言うでもなくつぶやく。
それに答える同僚。
「ああ。地球上の生命体の頂点に立ち、恐れるものは何もなかった。そう聞いている」
「恐れるものは何もない、か…」
「ああ。神をも恐れなかった…。ある意味、天罰だったのかもな」
「天罰…」
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