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((我々はどうなのだろうか…。神、つまり自然の摂理を軽視してはいまいか…))
化石を見つめ、思案にふけるケビンに同僚は明るく声をかける。
「ま、末端には関係ないさ。種は絶対に滅びる。絶対絶滅説。そんのを唱えて騒いでる奴らもいるが、当分先の事だ。せいぜい俺たちは長生きしようぜ」
「ああ…」
「“ただ、神に祈りをささげよ”誰かがそんな事言ってたな。まぁ、俺は宗教家ではないが、ここだけ聞くと楽な言葉だよ。都合いい所だけあやかろう」
「そうだな…。レックス。お前の神は、どんな神様だい?」
「レックス?」
「こいつの名前さ」
ケビンは、自身の“固い甲殻”に覆われた“4本の内の2本”の手を使い、レックスの首にかけられたドッグタグ(認識票)の刻印を丁寧になぞる。
「そうか、お前は古代文字解読学を学んでいたんだったな」
「ああ。解読された彼らの文献によると、レックスというのはこいつら人類の、さらに昔に滅び去った地上の覇者の分類名らしい」
「ほう。因果なものだな。継承された滅びの名ってところか」
「彼らは好んで過去の英雄の名を子につけていたらしいぞ」
「俺達にはわからん文化だな。しかし、ケビン。寒くないか?」
「今日の気温は30度まで下がるらしい」
「どうりで寒いわけだ。ウラン濃度も低いしな…」
同僚は、空気中のウラン濃度を測るセンサーへと進化した短い触角を震わして、マントを羽織直す。
「今日はこの辺にして、行こうぜ。こう寒いと、マントを脱いで羽を広げる気にもなれねぇ。のんびりと歩いて帰ろう」
「そうしようか」
ケビンは、その背中に格納された羽を一度広げ、まさに羽を伸ばすと、再び格納し、マントを羽織る。
「ケビン、手伝うよ」
仕事を終えた二体は、それぞれ4本、計8本の腕でアルミ製のシートを広げる。
シートは、何者かに祈りをささげ続ける“ヒト”の化石にそっと被せられた。
「おやすみ、レックス」
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