生はまこと苛烈に尽きる

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  この人がそんな 俗っぽいことを 言い出すのが意外で、 ぽかんと見上げてしまった。 「? なに? どうかしたの」 「あ、ううん。 なんでもない」 「なら、いいけど」 坂田はふっと 微笑み落とす。 その笑顔に昔ほど 無防備な甘さは 見当たらなかったけれど、 私や千佳の知らない間に 彼はしっかりなにかを 守ってきたんだなと思った。 それはたぶん、 奥さんやお子さん なんだろうけど。 私は20代のほとんどを ひとりで歩いてきたけれど、 彼は違うんだなと 思った瞬間、 ふいに背中のあたりに 心細さがまとわりついてくる 気がしてしまった。 不公平とは思わない。 だって、 私は私で選んで 歩いてきた道だ。 .
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