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「──汚して。
あなたで私を、
もっと汚して」
瞬間、
後頭部に痛みが走る。
掴んでいた髪を、
桃さまが強く引いたからだ。
真っ黒の瞳が、
焦げそうな熱をはらんで
私を射抜く。
「……調子に
乗らないでください。
あなたになにがわかるんですか」
「わからないから、
欲しいって言ってるんです」
「ばかな」
「私のこと、
選んだのは、
あなた、
です」
喉に引っかかるものを
飲み込みながら言うと、
彼は一瞬眉根を寄せてから
息をついた。
「……ばかな」
慈悲のかたまりみたいな
声だと思った。
「こんなに手の内を晒しても
まだ逃げないなんて……
あなたは本当に、
馬鹿なひとだ」
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