第1章

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白昼の繁華街に怒鳴り声が響き渡る。 「あそこだ――! 」 「待て――! 止まれ――! 」 「早く捕まえろ――! 」 警棒を片手に握る警官や、犯行を目撃した学生など若い男達が、血の付いた包丁を握りしめて逃走する男を追っていた。 その男の前に、そんな捕り物が行われている事を知らないタクシーが止まり、1人の男が降車する。 その男の顔を見て逃走していた男は立ち止まり、呆然とタクシーから降りてきた男の顔を凝視。 男の手から包丁が滑り落ち、力なく男はその場に膝をつく。 戦慄く両手で顔を覆いつぶやいた。 「さ、最悪だ…この世の終わりだ…。 お、俺は赤の他人を刺しちまった」 男は数分前、タクシーから降りてきた男、女癖が悪いと評判の歌舞伎役者にキャバクラで働いている彼女を寝取られ、その恨みを包丁に込め後ろから一刺して逃走中の身であった。 膝をついた男は、追いついた警官達に取り押さえられる。 犯行現場では背中を刺された男が路上に横たわり、近づいてくる救急車のサイレンを聞きながら、薄れて行く意識の下頭に浮かんだ事は。 「ああ、最悪だ…この世の終わりだ…。 これで彼女に素性がばれる」 刺された男は、女癖が悪いと評判の歌舞伎役者と他人の空似だが、顔が良く似ているのを利用してなりすまし、街で見かけた女の子を口説き落とし、待ち合わせの場所に向かう途中で刺されたのであった。
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