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「で、由良(ゆら)、なんなの、これ」
駆け込んだ電車の中、幼馴染の颯太にデコピンされる。
「だって、今日、風紀検査なんだもん」
おデコを片手で抑えながら、颯太を見上げた。
「だから?」
私を見下ろし、颯太が首を傾げる。
昔は私の方が、背、高かったのにな。
「だから、私の高校は、前髪、眉毛までなの」
「はぁ?それ、急に決まったのか?」
颯太は、大きな口の右側をあげた。
この顔は、私の事を小馬鹿にしている証拠。
「そんなわけないじゃん、生徒手帳に書いてある……んん?」
や、やばい……。
「どした?」
胸ポケットに手を当てたまま、固まる私。
「やだぁ、生徒手帳忘れたみたい。ホント最悪ー。この世の終わりだよぉ」
あまりのショックに、電車の中なのに大声を出してしまった。
「はっ、大丈夫。この世界が終われば、次の世界のが始まる。次の世界での幸運を祈る」
颯太は私の頭をポコポコと叩くと、電車を降りて行った。
次の世界の幸運なんて、どうでもいーよぉ。
今は、とにかく風紀検査。
絶対に生徒手帳はチェックされるしぃ。
『あーあ、私の朝の頑張りは、何だったのぉ』
ホームの颯太に向かって、電車に残る私は頬を膨らませて、窓越しにあっかんべーをした。
颯太はホームで何時も一緒になる女の子と話すのに夢中で、絶対に気付いていない。
『あれ、付き合ってるんだろうな』
別々の高校に入ってから知らない颯太が増えて、なんだか少し寂しい。
人混みに消える瞬間、颯太が振り返り、舌を出す。
奴め、見えていたのか。
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