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駅から高校までは、なだらかな上り坂。
この坂を歩くにつれて、じわじわと、体力とヤル気が奪われる。
今日は尚更。
「由良、おはよ」
クラスメートの仁子(にこ)ちゃんに背中をパシンと叩かれた。
「おはよー、ニコちゃ……」
「何、どーしたの、それー?」
私のおデコを指差し、笑い出すニコちゃん。
「………やっぱり、変………かな」
「変変変変、へーん。ギャハハハハ」
バシバシ背中叩いて、い、痛いよ、ニコちゃん。
「変だよ、前髪。斜めじゃん。アハハ。
で、何でそうなったの?」
「今日、風紀検査でしょ。朝気づいてさあ……」
「で、自分で切ったの?」
「そう」
「ありえないー。ありえないほど下手ー。斜めだよ。超ななめ。グフフフフ」
笑いすぎだよ、ニコちゃん。
「しかもさぁ、生徒手帳忘れてさぁ」
「ついてないねぇ、由良ちゃん」
「ほんと、ついてないよ、なんでこんな日に生徒手帳忘れちゃうかなぁ」
「そうじゃなくって、今生徒手帳忘れたって言ったの、高河(こうが)に絶対聞かれたよ」
ニコちゃんは、すぐ前方の男子を指差して、小声で耳打ちして来た。
『あ、私たちのクラス風紀委員の高河君だぁ』
高河君に聞かれたのなら、
「生徒手帳忘れたの、ごまかせないよね」
僅かな望みも消え去り、朝から、この上なく憂鬱。
この世の終わり以外の何ものでもない。
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