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 真琴の声を聞いた瞬間、勇仁が分かりやすいぐらいにホッと安心して、再び真琴を抱きしめる腕に力を入れた。  お互いの身体がピタリとくっついて、同時に勇仁が付けている香水の匂いが真琴の鼻を掠めた。  久々に香ったその匂いに、勇仁の存在を実感させられて真琴の胸がキュッと軽く締めつけられた。  勇仁が真琴の家から出ていってから、そんなに日は経っていない筈だった。なのに無性に寂しさを覚えた真琴は、無意識に自分も勇仁の身体に腕を回して抱きしめてしまった。 「うおっ……わ、悪いっ」  真琴が抱き返して数秒後、勇仁が慌てて腕を離して謝った。一瞬で香水の香りや温もりが無くなってしまい、真琴はポカンとする。 「まこを助けるのに必死で、抱きしめるとか……その、悪かった」  抱きしめたのは勇仁も無意識の事だったようで、しどろもどろになりながら謝ってきた。  その様子を見ながら、真琴も同じ事をしてしまった恥ずかしさから、再び顔が熱くなった。 「いや……大丈夫。お陰で、助かった」  いつまでも黙ったままではいけないと思い、恥ずかしさを振り払ってお礼を言った。 「ああ。まこ……やっぱ、用事ってのが気になるし、俺ん家寄って行けよ」 「……うん」  勇仁の家に行くと気まずくなるのが分かっていたが、帰りたいと言いたくなる気持ちをなんとか留めて頷いた。
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