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その証拠に、直ぐ側で呼びかけたり、ベッドから起き上がる為に動いたりしたのだが、勇仁が起きる気配は全くなかった。
一つ一つ自分を納得させる様に、真琴の中で今回の事は、お酒の所為で起ってしまった悲劇だったと片付けようとした。
記憶を無くした自分も自分だし、勇仁の方も記憶に残ってるか怪しい所だ。そんな状態で勇仁を一方的に責めるのは違うと思った。
これはもう、犬に噛まれたとでも思って、全て忘れるしかない。
「やばい……こうしちゃいられない」
結論が出た瞬間、真琴は焦り始めた。
もしも真琴の読み通りだとすれば、勇仁が起きて真琴の姿を見たら、驚くだろう。まさに、さっき真琴が体験した一通りの事を勇仁もする事になるかと思うと、少し厄介だ。
真琴だって、目覚めてからの状況と身体の痛みから、理解せざるおえなかっただけで、記憶自体は全くない。その状態で納得するのは無理だし、勇仁の場合だと身体の痛みがない分、真琴以上に受け入れられないだろう。
先に起きていた真琴にあれこれ聞き始める事を思うと、自分の事だけで精一杯な真琴には無理な話だった。目覚めた勇仁に対して、納得出来る様に状況説明をする事態は、出来るならば避けたい。
記憶がないまま説明すれば、言葉がどうしてもあやふやになって、そこをつっこまれるのは分かっている。この事はもう、お互い記憶がないのだから、そのまま無かった事にしておきたい。
そうする為には、真琴がここに居てはいけないのだ。
「帰らなきゃ……」
慌てて服を着替え終えた真琴は、ここに自分が居たという証拠を何一つ残さず、立ち去る準備を手早く進める。
「って……」
歩く度に身体が痛むが、今はそこを気にする余裕はない。
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