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もしも今、勇仁が起きてしまったら、全てが台無しになる。そんな最悪な事態にはなりたくないと思いながら、極力物音を立てぬように、ゆっくりとドアへと向かった。
ベッドでぐっすりと眠っている勇仁の側を通り過ぎる際、真琴は足を止めて覗きこんだ。
本当に起きないかどうか、最終確認する意味も込めてだった。その心配をする事もなく、勇仁は呑気な顔をして眠っていた。
確認出来てホッとした反面、真琴は無性に苛立ちを覚えてしまった。
(誰の所為で、こんな冷や冷やさせられてると思ってんだよ!)
感情的にぶつけてしまいたいと思うのを何とか心の中だけに留めて、再び足を進めた。
やっとの事でドアまで辿りつくと、そっとドアノブを回して部屋を出る事に成功した。
パタンと閉じたばかりのドアに凭れかかり、真琴は安堵の息を漏らした。
とりあえず、これで最悪の事態は回避出来たという訳だ。
出ていく時に、ホテル代としていくらかお金を置いていこうか迷ったが、あえてせずに出てきた。
そうしたのは記憶があるか怪しい勇仁に対して、何も残さない方がいいと判断したからだ。
それと、勇仁の所為で痛む身体の治療費として、ホテル代ぐらいは払ってもらおうと思ったのだ。悲惨な状態にはなってなさそうだが、この痛みを作ったのは勇仁だから、それぐらいは甘えておこう。
ゆっくりとした足取りで、真琴は再び歩き始めた。
早朝の空気は清々しく、真琴の心境と反して爽やかな気持ちになる。気温も日中と比べると涼しいぐらいで、夏なのに過ごしやすい。
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