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ホテルから出る事が出来た真琴は、辺りを見回した。勇仁が起きる前に抜け出せて満足している節はあるが、真琴にはまだ自宅へ帰るという最大の試練が残っている。
ホテルがある場所は入り組んでいて、外へ出ても目印になるものは何も見えなかった。
携帯で地図を開こうとしたが、充電が切れていて使えない。痛みに耐えながらの状態で、見知らぬ場所を当てもなく歩き回るのは避けたい所だが、そうも言ってられない。
恐らく、飲み会の場所からそう遠くない筈だ。同じ駅だとすれば、真琴も過去に数回降りた事がある所だった。
大通りまで出れば何とか場所を把握する事が出来そうだ。急に希望が見えてきて、真琴はとぼとぼと歩き始めた。
適当に歩いたつもりだったが、幸いな事に直ぐに大通りへと出る事が出来た。
真琴の読み通り、ホテルの場所は飲み会があった店の近くだった。やっと自分がいる位置を掴む事が出来て、真琴の家までもそう遠くない距離だと分かって安心する。
しかし、無事に家に辿り着けたとしても、再び昼前に起きて、講義を受けに大学へ行くのは難しそうだと思った。
「はぁ……」
問題は身体に掛かる負担だけではなく……大学へ行けば必ず勇仁と顔を会わせる事になる。そっちの方が真琴にとっては悩ましい。
果たして、まともな顔をして勇仁と話せるのだろうか……考えるだけで頭が痛い。
最中の記憶がない分、思い出す事はないにしろ想像しただけでも気まずくて仕方がない。
「ったく……勇仁のやつ。ご飯でも奢らせないとなー」
ノロノロと足を動かしながら、真琴は誰に言うでもなく呟いた。
未だ不定期に襲ってくる痛みに慣れず、真琴は心の中で『本当に勘弁してくれ……』と何度も思った。
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