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「勇仁がさ、あそこまで自分以外の立場で考えてたからな。落ち込んでるのも初めて見たし、本気なんだなって思ったんだ」
聞いてる内に、染谷には真琴達の事を全部知られている気がして、妙に照れくさくなった。
「へ、へぇ……。でも、落ち込む事は見なかったとしても、人の気持ちを考える事ってあったよな?」
「は? 誰が?」
「え……勇仁が、だけど」
恥ずかしさから逃れようとして、話題を別の方へ振った。
真琴が言った瞬間、さっきまで楽しそうだった声音から一転し、染谷の声が急に低くなったので真琴は驚いた。
「ないない! あいつが今まで人の気持ちを考えるどころか、謝りもしなかったよ。あんなに勝手な事しててもな」
「え……でも、オレにはいつも……」
染谷が全力で否定するので、思わずポツリと真琴が口にする。すると、染谷が皆まで言うなとばかりに、手で制してきた。
「そうだった。春木を除いて……って言うのを忘れてた」
再び染谷が声の調子を戻し、揶揄う様に真琴に言った。そこで墓穴を掘ってしまったと理解した真琴は、途端に顔が熱くなった。
「春木が思ってるよりもずっと前から、勇仁は春木の事が好きだったって事だ。だからさ、自信持っていいんだぜ」
近寄ってた顔を少し離して、染谷は赤くなってるであろう真琴の顔を見て言った。
励ますつもりで言ったのだろうが、そんな染谷の気遣いが裏目に出てしまい、真琴は恥ずかしさに耐えきれずに俯いた。
その後は、戻ってきた勇仁が二人を見て不審に思い騒ぎ始めたので、染谷との話はそこで終わったのだった。
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