【1】

17/28
前へ
/165ページ
次へ
 真琴をこんな状態にした犯人は、未だベッドの上でぐっすりと眠っているだろう。  もし目を覚ました後に真琴に何も言ってこなければ、勇仁も記憶がからっぽだと判断する事にする。  仮に勇仁が知ってて記憶がないフリをしたとしても、真琴から尋ねる事はしない。  どちらにせよ昨夜起きた事は、自分の胸の中だけにしまっておく事にする。  それで波風立てる事無く、今まで通りになるならと真琴は決意を固めた。 「ふぅ……」  なんとか自宅まで辿り着いた真琴は、一気に疲れが身体にきてしまい、そのままベッドへダイブした。 「つぅっ……いったーー」  ダイブした際に伝わった振動で、身体に痛みが走って思わず叫んでしまった。身動き出来ないまま、暫く大人しくしているとそれは次第に治まっていった。 「んー。やっぱり、大学に行くのは無理だな……」  布団に顔を埋めたまま呟く。  ベッドへ寝転ぶと、真琴の身体は急にズーンと重たくなった様に感じた。それはまるで再び起き上がる事を、全身で拒否しているみたいだった。  今日は、取ってる講義が三つ程あった。その中でも出席だけ済ませれば単位が取れる講義が一つだけある。体調次第でそれだけでも受けに行こうかと迷っていた。  とりあえず、充電切れの携帯をどうにかしなければ思った真琴は、頭の近くにあったモバイルバッテリーへ繋いだ。  それにしても、横になってちょっと動いただけでも辛かった。この状態だと、実際は家から出る事すら今の真琴には難しいだろう。  そう思った瞬間、早々と大学へ行くのを諦めた。 「くそー。勇仁のバカ野郎……」  ダルさと痛みから思う様に動かない自分の身体をもどかしく思い、真琴はこの場に居ない勇仁に対して文句を言った。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

745人が本棚に入れています
本棚に追加