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  *** 「んんー……」  真琴が心地よく眠っていた所を邪魔したのは、頭上に置いた携帯だった。  普段からマナーモードにしている為、無視しようとしてもバイブの振動が微妙に気になってしまう。本当はもう少し寝ていたい所だったのだが、仕方なく目を覚ます事にした。  携帯が震えだした当初は、誰かがメッセージを送ってきたのかと思っていた。しかし、それにしては振動時間が長すぎる為、電話が掛かってきているのだと察した。 「んー……誰だよ……」  寝ぼけ眼でゴソゴソと頭上においてた携帯を掴んだ真琴は、開いているかどうか分からない位の薄目を開けた。狭い視野の中で何とか通話ボタンを押すと、通話をする為に耳に携帯を押し付け再び目を閉じた。 「もしもしー?」  電話を掛けてきた相手が誰だか把握しないまま、真琴は寝起きの掠れた声で応答する。  咳払いして声を整える事すらせずにそのまま出たのは、どうせ大した用事ではないと踏んでいたからだった。 「お、やっと出た。おーい、まこ。今日は珍しく寝坊かー?」 「わっ……!」  何も考えず電話に出てしまった事に、今になって後悔を覚えた。携帯越しで喋り始めた相手は、暫く接触を避けたいと思っていた勇仁だったからだ。  声を聞いた瞬間に勇仁だと分かった真琴は、驚き過ぎてさっきまでの眠気が一気に吹き飛んでしまった。お陰で目もパッチリと開いてしまった。  真琴の事を『まこ』と呼ぶのは、知ってる限りでは一人しかいない。声を聞いた時に既に分かってはいたが、その呼び方で勇仁に間違いないと確信した。
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