【1】

20/28
前へ
/165ページ
次へ
 分かっていても、まだ信じられなかった真琴は、携帯を耳から離して画面をまじまじと見つめた。  これで画面に勇仁以外の名前が表示されるなんてあり得ない事だ。でも、そうであって欲しいと、すがるような気持ちで確認した。  結果としては、残念ながら……というやつで、画面にはしっかりと勇仁の名前が表示されていたのだった。 「おーい。どうした、まこー?」  ジッと見つめている携帯から勇仁の声が再び聞こえて、真琴は慌てて耳へと戻す。 「な、何だよ……?」  面と向かって会っている訳ではないのに、バクバクと心臓の音が煩くなる。  勇仁とは大学で顔を合わせて話す事がほとんどだったので、電話で話す機会は少なかった。  それもあって、慣れない電話でのやりとりが変に緊張してしまう。  しかも、勇仁が真琴に何の用事で電話をかけてきたのか分かっていない為、尚更だ。 (もしかして今朝のホテルで、勇仁のやつ……本当は起きてたんじゃ……)  勇仁が用件を喋るまでは安心する事が出来ない為、真琴はつい自分にとって都合の悪い事を考えがちになる。 (勇仁が起きていただなんて考えられない……。でも、絶対寝ていたとも言い難いし……)  寝起きなのも手伝って、真琴の頭の中はパニック状態だった。 「まこー?」 「な、何……?」  勇仁が寝ていたかどうかを必死に考えていると、携帯から声が聞こえてきた。  慌てて返事をする傍らで、仮に勇仁が起きていたとしたら、電話で真琴に何を聞くのだろうか……?  浮かんだ疑問に答えが出なくて、モヤモヤするばかりだ。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

745人が本棚に入れています
本棚に追加