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 考えれば考える程、勇仁から何を言われるのか怖くなってきて、真琴は血の気が引いて行くのを感じていた。 「おーい! まこ、聞こえてんのか? まだ寝ぼけてんのか。返事ぐらいしろよー。今が何時か分かってるかー?」 「え……あ、ごめん。えっと……何時だろう、な……?」  再び携帯から勇仁の声が聞こえて、真琴は意識を耳に集中させた。何度か電話越しで呼びかけていたらしいが、考え込んでいて気付かなかった。  それにしても……と、真琴は不思議に思った。喋りかけてくる勇仁が、恐ろしくもいつも通りな気がするからだ。 「やっぱ寝ぼけてるな。おーい、そめやーん。今日はまこの奴、寝坊してるっぽい」  記憶が残っているとしたら、若干の気まずい感じで言葉が詰まる筈だ。注意深く聞きわけようとして、真琴は勇仁の様子を探る為にあまり話さずにいた。  それを勇仁は寝起きで頭が働いていないと思ったらしい。携帯を越しに、近くに居るであろう大学の友人に向けて、伝えている勇仁の声が聞こえてきた。  寝坊してると言ってるのを聞き、真琴は携帯を耳から離して時間を確認した。表示されている時間は、当初真琴が出ようとしていた講義の時間が始まる直前だった。  今日はもう行けないと諦めていたが、この時間まで寝ていた自分にガッカリしてしまった。  真琴が落胆している一方で、携帯から勇仁達の笑い声が聞こえてくる。さっき、勇仁が『そめやん』とあだ名で呼んでいたのは、真琴も大学でよく一緒になる友人の染谷の事だった。
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