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 それにしても人間の適応力とは凄いもので、憂鬱になりながらも何度か経験する内に、少しだけ慣れてきてしまった。  居心地の悪さは相変わらずではあるが、真琴に対する二人の態度が普通だったので、次第に気にしすぎない様になってきたと言う方が正しいだろう。  それと……真琴が二人と離れた席で講義を受けようとすると、決まって勇仁の機嫌が悪くなるのだ。  三人でいる時はよく話しかけてくる染谷に相槌を打つのが真琴なので、恐らく二人になるとその役割が自分に回ってくるのが嫌なんだろう。  今までに二回ほど離れた席に座って講義を受けてみたが、勇仁の機嫌の悪さには勝てず、無駄な抵抗をするのを止めてしまった。 「勇仁、ごめん……」  今日も自分が行けないとなると、勇仁と染谷だけで講義を受ける事になる。勇仁にとっては避けたい事態だろうから、わざわざ電話を掛けて確認してきたに違いない。  勇仁が電話してきた理由が分かり、妙に納得してしまった。  早朝にホテルに居た時は、やはり勇仁は起きていなかったのだ。それが確認出来た瞬間、真琴は勇仁に謝った。 「ん? 急に謝って、どうした?」  まだ不機嫌になっていない勇仁は、急に謝った真琴の心配をしてきた。 「いや……講義に、間に合わないから」 「あー、今起きたんだろ? それなら、しょうがないだろ」 「ああ、そうだな。有難う」  たとえこの後で不機嫌になったとしても、ちゃんと話を聞いてくれる優しさが勇仁にはあった。これもモテるポイントなのだろうなと、真琴はぼんやりと思った。 「で? まこ、この後にあるやつは受けに来るのか?」
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