【1】

25/28
前へ
/165ページ
次へ
「おいおい、これからまだ寝るつもりかよ。もう十分寝ただろ? というかさ、なぁ……まこ、昨日の飲み会でさ、結構飲んだのか?」 「へっ……!?」  最初は少し冗談交じりで話していた勇仁が、急に昨日の飲み会の話題を出してきたので、真琴は変に反応してしまった。  声が裏返って高くなってしまったのは、この際仕方がない。  このタイミングで話題を出してくるなんて、無意識なのか、わざとなのか……真琴に判断は出来なかった。勇仁の心理が読めなくて、真琴は心臓をバクバクさせながら、とりあえず勇仁が喋るのを待った。 「えっと……その、悪かったな、まこ」 「……何が?」  内心では冷や冷や状態だが、それをおくびにも出さず、冷静を装って尋ねた。 「俺さ、昨日はかなり酔っ払ったみたいでさ、途中から記憶がないんだよな。飲み会の途中で記憶がなくなるのは初めてで、まこは俺が誘ってきたのに、なんか悪かったな。ちゃんと帰ったとは思うけど、大丈夫だったか?」 「あ……うん」  申し訳なさそうに勇仁が喋り出した内容を聞き、真琴はそっと安堵のため息を漏らした。  これで、勇仁も真琴と同じく記憶をなくしてる事が分かった。今朝も目覚めなかったし、真琴とラブホに居たなんて思いもよらないだろう。  やはり勇仁を起こさずに、黙ってホテルを出たのは正解だったのだ。 「オレの方はちゃんと家に帰れたし、大丈夫。ゆ、勇仁こそ……途中から記憶がないって、だ、大丈夫だったのか?」  何も知らない体で、とりあえず真琴は話を合わせた。  本人から聞かなくても、勇仁が昨夜は家に帰らずラブホで一夜を明かしたのは、他の誰でもなく真琴が一番知っている事なのだが……。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

745人が本棚に入れています
本棚に追加