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流石に本当の事は口が裂けても言えず、平常心を心がけながら、何となしに尋ねた。
「あ、いや……俺の方はさ、目が覚めたらラブホに一人きりだったんだよ」
今朝自分が見ていた光景を、勇仁の口からも告げられて、真琴はゴクリと唾を飲み込んだ。
「目が覚めたら誰も居なくてさ、最初は一緒に飲んでた奴に、適当にぶち込まれたかと思ったんだ。けど、使用済みのゴムがあったし、何かスッキリしてるからさ、まー、ヤることはやったっぽい。全然覚えてないんだけどな」
「ごほっ……」
「しかも、俺が寝すぎた所為だろうけど、女の子には先に帰られたっぽいんだよな……」
「そ、そう……」
勇仁の話を聞いていた真琴は、思わず噎せてしまった。最中の記憶もなくて、ホッとしたがなんて返せばいいかわからず、相槌だけ打った。
携帯を通して向こう側からは、勇仁の近くに居て話を聞いてた染谷が「だっせー」と言って、笑っている声が聞こえてきた。
複雑な心境で聞いていた真琴の気持ちなどつゆ知らず、電話の向こう側の二人は呑気に笑っていた。当然ながら、真琴もそこに混じって笑う事は出来なかった。
笑うどころか……今の真琴は逆に頭を抱える羽目になっていた。
(勇仁の奴……使用済みのゴムとか言うなよ)
昨夜の記憶がないのは真琴も同じだったが、それでも今朝の光景を目の当たりにしている分、全く知らないとは言い難い。
それでも少し寝たお陰で、今朝の時よりも記憶が薄れたと思っていた。だったはずなのに……勇仁が喋った話を聞いて、一瞬で蘇ってきてしまった。
中途半端に記憶がある分、真琴の方がよほど厄介だった。出来る事なら自分も今朝の事を含め、綺麗さっぱり消し去って、全てを無かった事にしてしまいたかった。
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