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「まこ、まだ調子悪そうだし、何か顔が赤くなってねぇ? あんま無理するなよ」
今日来たのは、勇仁が家に押しかけてこない為……とは言えず、口ごもる。
真琴が恥ずかしさで顔を赤くしてるとは知らず、勇仁はひたすら心配していた。今もなお真琴の顔を覗き込み、ジッと様子を見ている。
頼むから、これ以上は距離を縮めてこないで欲しい。そう心の中でずっと懇願していた真琴だったが、耐えきれず口に出した。
「だ、大丈夫だから。は、離れろよ……」
今までなら、この近さでも勇仁と普通に話す事が出来たと思う。しかし、昨日の出来事の所為で、真琴はいつも通りに出来なかった。
せめて顎を掴んでいる手だけでも離して欲しい。そんな思いを込めて伝えれば、渋ると思った勇仁は意外にもあっさり離してくれた。
真琴の言い分なんて聞き入れてくれないだろうと思って身構えていただけに、拍子抜けしてしまった。
この流れなら、後は講義へ向かう為に別れればいいだけ。真琴にとって唯一の救いだったのは、今日の講義が勇仁と被っていない事だった。
そろそろ喋るのを切り上げて、勇仁と一刻も早く別れてしまおう。決意を固めて、切り出すタイミングをうかがう。
「そんな顔して、大丈夫な訳ないだろ。ダメだ、ちょっと来いよ」
「え……」
真琴が切り出す間もなく、事態は期待していたのとは違う展開に進んでいった。
勇仁がいきなり真琴の腕を掴み、大学とは逆方向へと歩き出してしまったのだ。
腕を引かれるまま付いて行くのはまずいと思った真琴は、掴んでいる手を振り払おうとした。しかし、勇仁の方が力は強く、思い通りにいかなかった。
「ちょっと……勇仁! 今からどこに行く気だよ?」
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