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勇仁がすたすた歩くので、若干小走りになりながら後をついて行く。そんな真琴からは、勇仁の背中しか見えない。
これなら顔を見なくても済むので、さっきよりは普通に話しかける事が出来た。
「俺ん家」
「はぁ!? な、何言ってんだよ……」
胸をなで下ろせたのもつかの間で、勇仁から行き先を聞いた真琴は、思わず声が裏返ってしまった。
二人きりになるのを避けたいと思っている真琴にとって、これは何としてでも回避しなければいけない緊急事態だ。
「どうした、まこ? 今まで俺ん家に来た事あったし、そんな驚くことか?」
「えっと、いや、その……折角大学まで来たのに、なんで講義をサボッてまで、勇仁の家に向かうわけ?」
振り返った勇仁が眉を顰めたので、真琴はしどろもどろになりながら言葉を選んで話す。
いっそのこと、本音を言ってしまいたい。
そうは思っても実行出来ないのは、今以上に面倒な事態に陥るのが、容易に想像出来てしまうからだ。
絶対に、勇仁が納得するまで、根掘り葉掘り聞いてくるのが目に見えている。
「だって、まこ。まだ本調子じゃねーんだろ? 昨日から心配だったし、俺ん家で看病してやるよ」
「えっ……!? そっ、そんなのいいって」
どんどん真琴が望んでいるのと真逆に進んでいく事態に、慌てて断りをいれる。
こんな所でばったり会わなければ、心の準備をする時間は出来た筈だった。今は……それ所ではなくなってしまったけど。
このまま勇仁に付いて家まで行ってしまったら、逃げ道が完全に断たれてしまう。そうなる前に、勇仁と別れないといけない。
「なんだよ、昨日から。俺達、そんな遠慮する仲でもないじゃん。気にすんなって」
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