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真琴が遠慮をして頑なに拒んでいると思っているらしく、勇仁は機嫌を損ね始めた。
厄介な事になりつつあるのを感じた真琴は、どう切り抜けようかと考えあぐねる。
離して欲しい手は未だ勇仁に掴まれたままだし、困ったものだ。真琴がそう思ったタイミングで、勇仁が逃さないようにして掴んでる手に力を込めてきた。
「え、ちょっと……」
急に勇仁が取ってきた行動に、嫌な予感がした。少し遅れて真琴は掴んでる手を外そうとしたが、それよりも先に腕を引っ張られた。
思わず声を漏らしたが、勇仁は気にすることなく止めていた足を動かし始める。
「いいじゃん。昨日はまこに飯も奢れなかったし、お詫びも兼ねてそれ位させろよ」
「でも……」
「決ぃーまりっ」
「…………」
腕を引っ張られるままに足を進めるものの、勇仁の申し出には拒み続けていた。
勇仁もそれで引き下がらず、むしろいつも以上に意見を主張してくるので、ついに真琴は何も返せなくなってしまった。
言葉をなくした真琴に勇仁は一旦振り返ったが、直ぐに了承したと受け取ったみたいで、足を止める事はなく進んでいった。
ほどなくして、真琴の願いもむなしく、あっという間に勇仁の家へ着いてしまった。何とか断って逃げようと思っていた筈なのに、結局は勇仁の押しに負けてしまった事を、真琴は情けなく思っていた。
「まこ、鞄適当に置いて、ベッドで寝てろよ」
「うん……」
数週間ぶりに訪れた勇仁の部屋は、脱ぎっぱなしの服があったりするものの、男の部屋にしては綺麗に整理されていた。
もう……ここまで来たんだ。今日は諦めるしかない。
そう決意した真琴は、勇仁から言われた通り鞄を隅に置いた後、ベッドに潜り込んだ。
布団を被った瞬間、勇仁がつけている香水の匂いがして、改めてここは自分の部屋じゃない事を認識させられた。
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