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あくまでも真琴がそう思ってるだけで、勇仁の方は気まずさなんて微塵も感じてはいないだろう。いつもより真琴の様子が変だと思ってるぐらいで、それも体調が悪い所為だと思って特に気にしていない節もある。
そう思われてるならいいのだが、真琴の方は気にしないでいる訳にはいかなかった。
記憶には残っていない、友人と一線を越えてしまった出来事に、真琴は思ってた以上に捕らわれているようだ。
勇仁と顔を合わせて、それに気付かされてしまった。
今までどうやって勇仁とやりとりしていたんだろうと、当たり前に出来ていた事にすら、今の真琴は疑問を感じずにいられない。
時間の経過と共に慣れが出てきたとはいえ、まだ心の整理は出来そうになかった。
「はぁ……タイミング悪すぎだろ」
包まった布団からは、再び勇仁が付けている香水の匂いがした。この部屋には何度か来た事があって、泊まる事になった時は、背中合わせで一緒にベッドで寝た事もある。
それまでの真琴は、微かに香る香水の匂いなんて、気にした事すらなかった。
やっと一人になれたというのに、気を休める所かここに居ない勇仁の事ばかり、頭の中でチラつかせてしまった。
「あー、もう! 何であそこで勇仁に捕まったんだ。ツイて無さすぎだろ……」
一人でいる今だからこそ、真琴はブツブツと呟いた。
もう少しすれば、買い出しから勇仁が帰ってきてしまう。居ない間に別の事を考えて、気を紛らわせたかったのに、蓋を開ければ勇仁の事ばかりだ。挙句の果ては先ほどのやりとりまで頭に浮かぶ始末だった。
「はぁ……何で、こうも気にするんだろうな……」
あの日の朝、先に起きたのが自分じゃなく、勇仁だったら……?
思い悩むあまり、起こらなかった事をふと考えてしまった。
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