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動揺して考える余裕がなくなった真琴だったが、勇仁に掴まれたままの肩がじわじわと熱を持っていくのは分かった。
同時に、勇仁が自分の上から退いてもらわないと、真琴は身動きが取れない事も理解した。
「ちょっと、勇仁。の、退けよ……」
「どうだ? 襲われそうになってる、この状況は」
さっきまでは、肉食系のお姉さんに狙われる話をしていた筈だ。それが、いつの間に襲われる話にすり替わったのだろうか。
疑問に感じていても言える空気では無かったので、代わりに真琴は冗談でこんな事をしないように言った。
「じょ……冗談、やめろよ」
相手がお姉さんではなく、友人の男で試しに押し倒されても、同じ感想が出るわけがない。
それよりも今の真琴にとってこの体勢は、消し去りたい過去の事と絡めて、何か喋ってしまいそうで、気が気じゃない。
勿論、からっぽになった記憶が蘇りはしないのだが、こうして実際に押し倒されると、変に考えてしまいそうではある。
早く解放して欲しくて、勇仁の胸元に手をつき、押し返す形で引き剥がそうと抵抗した。
「冗談じゃなくて、俺は本当にまこを心配してるから、こうして実践しながら聞いてるんだけど」
一体、何の心配なんだ。
心の中で思ったが、言っても無駄な気がして、口には出さずに押し返す手に力を込めた。
「まこ、本番でもそうやって抵抗出来ればいいがな。酔っ払ってたら相手が女の子でも、こんなに力入らねぇから、気をつけろよ」
「わ、分かった、分かったから! ギブギブ」
変な流れになってきたのを感じた真琴は、下手に否定するよりも、勇仁の意見を受け入れた方が良さそうだと思った。
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