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「お、お帰り……」
勇仁を見た瞬間、さっきよりも胸がざわついたが、なるべく平常心を装った。
「ただいまーって……なんかこれ、いいな」
「……何が?」
「いやー、まこもそうだけど、俺も一人暮らしだろ? だから、誰かに出迎えられるって、何かいいなって思ってな」
「そう……だな」
さっきまで、あんな事を仕掛けてきたというのに、部屋に戻ってきた勇仁の態度は嫌になるほどいつも通りだった。
やはり、勇仁にとってさっきのは、友人同士でじゃれあう延長線上に過ぎないという訳だ。
それが分かって、真琴の中でホッとした反面、一人だけ動揺して悔しい様な複雑な気分になった。
別に勇仁に対して恋愛感情を抱いている訳ではない。むしろそれよりも厄介で、変に知ってしまっている分、いきなりの接触は気まずさが拭えない。
折角、日が経つと共に真琴の記憶からも薄れつつあった所だったのに、勇仁の悪ふざけによって呼び戻された感じになってしまった。
それでも当日の朝ほど鮮明には覚えておらず、所々の記憶は抜けていたりするが。
「そういえば……まこ、この間の風邪、長引かなくて良かったよな。一人だと病気とかが一番つらいからな」
「……ああ」
全く……この男は。
ここでその話題を振るとは、タイミングが悪くて嫌になる。
複雑な感情を抱えながらも、真琴は短く返事をした。
「あ……それとさ、二週間もここで世話になるから、何か担当分けとかした方がいいよな?」
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