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勇仁が頭の後ろで手を組み、椅子の背もたれに凭れながら言った。それを聞いた真琴はどうして予定を聞かれたのかが分かった。
昨日までは終わる時間が同じだったので、特に気にしていなかった。
今日になって初めて、お互い終わる時間がバラバラになるので、勇仁が先に終わっても家に帰れない事に気付いた。何故なら、勇仁は真琴の家の鍵を持っていないからだ。
「あー……鍵、渡しておこうか?」
それを思い出し、真琴は鞄の中から鍵を取り出して言った。
「いや、いいって」
しかし、勇仁からの答えは変わらず『ノー』で返ってくる。
一緒に住む様になった二日目の朝、真琴は家のスペアキーを勇仁に渡そうとした。たった二週間といえど、無いと何かと不便だと思ったからだ。目の前に鍵を差し出してみたが、勇仁はそれを受け取ろうとはしなかった。
拒んだ理由はいまいちよく分からなかったが、『俺に持たせる必要はない』と断言されてしまったのだ。真琴もそれ以上は何も言えず、スペアキーを元の場所に戻した。
「でも、待ってる間暇だろ?」
今も頑なに受け取ろうとしない勇仁に、流石に待たせ過ぎるのは申し訳ないという思いから聞いた。
「終わるまでゼミの先輩と喋ってるから、俺の事は気にすんな」
「そっか」
悩む間もなく、勇仁から待ってる間の時間の潰し方を言われて、昨日の様に真琴は口を閉ざすしかなかった。
勇仁は気が長い方ではないし、待たされるのも好きじゃない筈だった。それでも真琴の講義が終わるのを待とうとするのは、家に泊めさせてもらってる申し訳なさから我慢してるのかもしれない。
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