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 直ぐにでも停止ボタンを押してしまいたかったが、それをすれば今度は勇仁から頑なに拒む理由をしつこく聞かれそうだ。  そっちの方が面倒だと思い、真琴はそれ以上止める事無く、見守るしかなかった。 「ま、飲もうぜ」  呆然としていると、勇仁に缶ビールを手渡された。受け取った後、お互いの缶を合わせてコンッと鈍い音とともに乾杯した。  直ぐにゴクゴクと美味しそうに音を立てながら飲んでいる勇仁の姿につられて、真琴も色々と考えるのを諦めたようにビールを口にした。 「やっぱ、冷えてると美味いな」 「そうだな」  暫くして、テレビの画面から流れてきた音を聞きながら、勇仁とたわいもない話をした。  まだ始まっていないのに、既に映像を見る気になれない真琴は、顔を伏せがちにしてお酒とおつまみに意識を集中させようと思った。 「まこは、観賞会とか慣れてなさそうだな。けどさ、俺達の仲なんだし、そういう気分になったら、遠慮せず好きにしていいぜ」  真琴が乗り気じゃないのが分かってるからか、勇仁は茶化す様に言った後、近くにあったティッシュケースを二人の間に置いた。 「ゆ、勇仁!」  それを置いた意味が分かった真琴は、咎める様に勇仁の名前を叫んだ。  顔も少し赤いと思うが、部屋の電気を消して暗くしている為、気付かれてなさそうだ。 「まー、まー。そう怒るなって。ほら、ちょうど始まったぜ」  勇仁が宥めながら、始まった事を告げてきた。言われても、まともに見る気になれなかった真琴は、再び俯きがちになって柿の種を睨みつける。  真琴が見る気はないと分かっている筈なのに、勇仁は始まったAVを止めようとしなかったので、次第に女優の声が聞こえてきた。
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