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それでもずっとそうはしていられず、勇仁は一体どうしているのかと気になった。ガバッと上半身を起こした真琴は、布団で寝ているであろう勇仁の姿をベッドから乗り出して覗いてみた。
「いない……」
布団はもぬけの殻で、勇仁の姿はなかった。
時計を見れば、まだ朝の八時半を過ぎた所だ。一限目からない日のいつもの勇仁だと、この時間はまだ布団でぐっすりと寝ている筈だ。なのに、布団にいないという事は、何処に居るのだろうか。
気になって頭を悩ませていると、意外にも直ぐに勇仁の居場所が分かった。トイレから水が流れる音が聞こえてきて、同時にドアを開ける音もしたからだ。
「あれ? まこ、もう起きたのか?」
起き上がった状態のままでいると、部屋のドアを開けた勇仁が姿を現し、話しかけてきた。
「あ……そのっ……」
心の準備が出来ていなかっただけに、いきなり現れた勇仁に何て返せばいいのか分からず、口籠ってしまった。
「おはよ」
「……おはよう」
勇仁が先に挨拶をしてきたので、沈黙にならずに済んだ。それは良かったのだが、勇仁の顔を見た瞬間、頭の中で昨夜の事がリピートし始めてしまった。真琴は、顔から火が出そうなぐらい、一気に熱くなってしまった。
「まこ、今日は一限からないんだろ? まだ寝てたら?」
「う……うん」
色々と思い出して恥ずかしがる真琴とは対照的で、勇仁は至っていつも通りだった。
あまりにも普通すぎて、もしかすると昨夜のやりとりは夢だったんではないかと思ったぐらいだ。だが、触れられた感触がちゃんと残っているので、その可能性は打ち消された。
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