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変にモヤモヤとした気持ちになって会話を中断させたままでいると、いきなり真琴の視界が遮られてしまった。
「な……ちょっとは機嫌直せって」
「わっ……」
突然の事で驚いていると、勇仁の声が近くで聞こえてきた。それにまた頭を撫でられる感触がして、真琴は勇仁に抱きしめられている事を理解した。
「ゆ、ゆゆ……勇仁、何して……」
動揺のあまり、ちゃんと喋る事が難しかったが、何とかそれだけを言う事が出来た。
「ん……あ、悪い。こうしたら機嫌が直ると思って」
「そんなわけ、無いだろ……とりあえず、離してくれ」
またしても呑気な調子で喋る勇仁を相手にして、真琴は早く離れて貰う様に急かした。
勇仁は真琴の機嫌を直す為にやったと言うが、これでは本当に痴話喧嘩している恋人のようだ。
今まで勇仁が付き合った女の子相手にこれをして、機嫌を直していたんだろうと思う。だが、友人の自分を相手にして同じ事が通用すると思ったのは、何故だろうと疑問だった。
「悪い、悪い」
「全く……いきなりでビックリするだろ」
勇仁が離れた事で、遮られていた視界がクリアになった。それでも、バクバクと音を立てる真琴の心臓の方はなかなか納まらないでいた。
勇仁からすれば、何の意識もせずにやった事だ。それが分かっているのに、真琴は緊張のあまり身体が硬直してしまった。
それは突然でビックリしたからだけでなく、他にも理由があった。
どうしてもあの日を境に、勇仁と距離が近すぎたり密着したりすると、変に意識してしまう自分がいる。
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