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「じゃあ……バイト終わった後、バイト先でちょっと飲んで、まこが終わるまで時間潰してようかな」
「え……?」
真琴が鍵を渡そうとした瞬間、勇仁が口にした事を聞いて少し驚いた。勇仁の頭には、最初から鍵を貰う選択肢がないのだ。
「ん? 俺、何か変な事言ったか?」
固まった真琴の様子に気付き、勇仁が窺う様に聞いてきた。一度は鍵を渡そうとした言葉を飲み込んだ真琴だったが、再び口にした。
「いや……一時間もあるし、鍵渡した方がいいかなって思ってたんだけど……」
「そうだったのか、サンキュ。でも居候の俺に、そこまで気を遣わなくていいって。だから、気持ちだけ貰っとくな」
言ってみたが、やはり勇仁は真琴から鍵を受け取ろうとしなかった。
分かってはいたけど断られてしまった事に、真琴は少しだけガッカリしてしまった。それは、単純に断られたから気分が沈んだという訳ではなかった。
勇仁がこの家に真琴よりも早く帰るよりも、バイト先で飲んで時間を潰す方を選択した事に、複雑な気持ちになったのだ。
「……一人で飲むつもりか?」
もしかすると真琴のバイトが終わるまで待つのはただの口実で、一緒に飲みたい人がいるのかもしれない。
そんな考えが頭を過って、つい聞いてしまった。
「え? ああ……一人で飲むつもりだけど、同じ時間に終わるバイト仲間いるし、適当に捕まえて付き合ってもらうかもな」
「そう……じゃあ、終わったら連絡入れる」
「よろしく」
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