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「……今日は、自分の家に帰る」
「え……」
長い間続いた沈黙を破って、勇仁が静かに言った。自分の上から重みがなくなった拍子に、真琴はゆっくりと上体を起こす。
「もう寝るだけだし、水道もちょっと使うぐらいなら大丈夫だろうし」
勇仁からそう言ってもらえたのは、真琴にとって有難い事だった。この気まずい状態から、まともに寝れそうにないと思ったからだ。
玄関へ向かう勇仁の姿を見守っていた真琴はドアを開けた瞬間、急にその背中を引き止めたくなる衝動にかられて、手を伸ばしかけた。
「それと……明日以降はもう、ここに帰らない事にする」
「勇仁……?」
「自分ん家か……別の所で世話になるつもりだから、まこも俺の帰りを待たなくていいぜ」
玄関のドアに手をかけた所で、振り返らないまま勇仁が言った。さっきの行動を反省しているからだと思うが、いきなりの事で驚きの方が大きかった。
何か言わないとと思ったが、真琴が喋り出すのを待たずに玄関のドアを大きく開いた勇仁は、あっさりと出て行ってしまった。
後を追うにしても、直ぐに出て行けない事に気付いて諦めた。真琴は下半身を勇仁に脱がされたままで、何も身につけていない状態だったからだ。
今から履き直していると、その間に勇仁の姿を見失ってしまう。それに、焦って後を追わなくても、勇仁の行き先は分かっている。
自宅から出ずにボウッとしていると、一人きりになった部屋が、やけに静かで広く感じてしまう。
勇仁と過ごし始めて一週間が経った所なのに、すっかり二人で過ごす生活に馴染んでしまっていたようだ。
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