745人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
肩を並べて歩きながら、そういえば染谷と二人だけで会話をするのは初めてだと思った。いつもは必ず二人の間に勇仁が居たから、今は居ない存在が気になって聞いてしまった。
「勇仁なら、さっさと帰ったぜ」
「……そう」
染谷が知ってるか確信は無かったが、返ってきた返事に気持ちが沈んだ。
たまたま講義室で姿を見かけただけなのかもしれないが、真琴には勇仁から何の連絡もないのに……と、少しだけ悲しくなった。
真琴の家を勇仁が出た日から、もう少しで一週間が過ぎようとしていた。その間、勇仁から連絡が来る事はほとんどなかった。
真琴も急な変化に気にはなっているが、今まで勇仁からの連絡を受けるばかりだったので、自分からは何となく送りづらい。日が経ってしまうと、余計に何て送ればいいのか分からなくなって、結局そのままにしていた。
一緒に住む前も必要以上に勇仁から連絡が来る事は無かったが、それでも同じ講義を受ける前等は連絡がきていた。
「元気か?」
知らぬ間に俯いてしまってた様で、掛けられた声にはっとして顔を上げた。若干、心配そうにしている染谷が視界に入って、ひらひらと手を振っているのも見えた。
「元気……かな?」
「自分の事なのに疑問形で言うあたり、元気じゃないだろ」
相変わらず染谷は人の事をよく見ていて、鋭い指摘をしてきた。
「まぁ……原因は勇仁なんだろ?」
「……うん」
染谷の口から勇仁の名前が出て、思わずドキリとした。
一体何処まで気付いてるのかは分からないが、下手に嘘をついてやり過ごせる相手ではない事がわかって、真琴は素直に頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!