【7】

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 不意打ちでこれは、勘弁してほしい。  別の事を考えて必死に顔に溜まった熱を冷まそうとするが、勇仁との距離が近すぎて何も考えられない。 「ゆ、うと……離してくれ」 「ああ、急に腕を引いて悪かった」  真琴が困惑してるのが分かってるのか、勇仁はあっさりと身体を離した。この際、赤く染まってるであろう顔は、見られても仕方がない。  そう決心した真琴は、止めてた足を再び進め始める。 「早く、チケット買おう」 「ああ、そうだな。まこ、顔赤いけど大丈夫か?」  真琴がテンパっているのが分かって、少しだけ余裕が出たらしい勇仁が揶揄ってきた。  それに対して頷くだけで返したが、仕返ししたい気持ちもやってきて、口を開いた。 「勇仁……さっきので、忘れた」 「は?」  真琴から反撃が来ると思っていなかった勇仁が、間抜けな声を出した。それに少し気を良くした真琴は淡々と告げた。 「だから、家帰って勇仁に言う事、忘れた」 「おいおい、嘘だろっ!」 「だって、勇仁がいきなりあんな事するから」 「ふざけんなって。あれはちょっと、まこを困らせてやろうとして……」  必死に訴える勇仁を見ているうちに、真琴はおかしくなって笑い出してしまった。  その様子を見た勇仁は、真琴が自分と同じ気持ちで言ったと理解する。喋るのを止めて、笑い続ける真琴の頭をくしゃくしゃとかき乱してきた。  それは恋人の様な甘い言葉は無く、友達の延長の様なやりとりだった。それでも、真琴にとっては今のこの瞬間が、勇仁と友人を域を超えて恋人になれたと実感した瞬間だった。  これからも、こうして勇仁と一緒に過ごせるようにと思いながら、笑って映画館へと向かった。 《終わり》
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