白い手

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 具合が悪いから寒気を感じ、温かい物が欲しいというのは判る。でも、顔も知らない相手に手を握ってくれだなんて、どう考えてもおかしな発言だ。  なのに、差し出された手と同じ白さの靄が頭の奥にかかって、その頼みを断りたいと思わない。  待ち受ける手に向けてのろのろと手を伸ばす。けれどそれが触れる寸前、今日一番の酷い頭痛に見舞われ、俺はベッドに背中から倒れた。  あの手を握ってあげなきゃ。握らなきゃ。そう思うのに起き上がれない。体が動かない。 「手を、握って…」  すがるような声がする。でも、ごめんと詫びることすらできず、俺の意識はそこで途切れた。 * * *  人の気配に目が覚めた。  身を起こすが、もう頭の痛みはほとんどない。どうやら峠は越えたようだ。 「どう? 少しはよくなった?」  声をかけられる。保健の先生だ。いつの間にか戻っていたらしい。 「はい、かなり」  返事をすると、ベッドを覆う仕切りの向こうから先生が顔を覗かせた。 「あら、随分顔色がよくなったわね。もしかして、寝不足だったの?」 「えー、いつもきちんと寝てますよー」  冗談に応じる余裕もできた。もう大丈夫のようだ。  でも、俺はいいけど、そっきの女の子はどうなんだろう。あんなに寒がってたし、大丈夫だろうか。 「先生。そっちのベッドの人は?」 「隣のベッド?」  先生がきょとんとした顔をする。だから、さっきそこに女性とらしき人がいたことを教えると、ますます不思議そうに首を傾げた。 「今日は保健室にはキミ以外来てないんだけど」 「え? でも先生、さっき席を外してましたよね?」 「ずっといたよ?」  何だか話が噛み合わない。  もしかして、具合が悪くて、生々しい夢でも見ていたのだろうか。  そんなことを考えていたら、一応確認のためにと、先生が隣のベッドを覗いた。そして見るなり声を上げた。 「何これ?!」
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