4人が本棚に入れています
本棚に追加
具合が悪いから寒気を感じ、温かい物が欲しいというのは判る。でも、顔も知らない相手に手を握ってくれだなんて、どう考えてもおかしな発言だ。
なのに、差し出された手と同じ白さの靄が頭の奥にかかって、その頼みを断りたいと思わない。
待ち受ける手に向けてのろのろと手を伸ばす。けれどそれが触れる寸前、今日一番の酷い頭痛に見舞われ、俺はベッドに背中から倒れた。
あの手を握ってあげなきゃ。握らなきゃ。そう思うのに起き上がれない。体が動かない。
「手を、握って…」
すがるような声がする。でも、ごめんと詫びることすらできず、俺の意識はそこで途切れた。
* * *
人の気配に目が覚めた。
身を起こすが、もう頭の痛みはほとんどない。どうやら峠は越えたようだ。
「どう? 少しはよくなった?」
声をかけられる。保健の先生だ。いつの間にか戻っていたらしい。
「はい、かなり」
返事をすると、ベッドを覆う仕切りの向こうから先生が顔を覗かせた。
「あら、随分顔色がよくなったわね。もしかして、寝不足だったの?」
「えー、いつもきちんと寝てますよー」
冗談に応じる余裕もできた。もう大丈夫のようだ。
でも、俺はいいけど、そっきの女の子はどうなんだろう。あんなに寒がってたし、大丈夫だろうか。
「先生。そっちのベッドの人は?」
「隣のベッド?」
先生がきょとんとした顔をする。だから、さっきそこに女性とらしき人がいたことを教えると、ますます不思議そうに首を傾げた。
「今日は保健室にはキミ以外来てないんだけど」
「え? でも先生、さっき席を外してましたよね?」
「ずっといたよ?」
何だか話が噛み合わない。
もしかして、具合が悪くて、生々しい夢でも見ていたのだろうか。
そんなことを考えていたら、一応確認のためにと、先生が隣のベッドを覗いた。そして見るなり声を上げた。
「何これ?!」
最初のコメントを投稿しよう!