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白い手
学校へ着くなり頭が重くなった。
夕べの行動を振り返ってみるが、風邪を引くようなことをした覚えはないし、睡眠時間も足りないという程ではない。
理由は判らないが、授業を受けることすら辛くなって来たので、俺は保健室へ向かった。
自分では判らないが、かなり具合が悪そうだったのだろう。保健の先生は俺のことを案じてくれて、あれこれ具合を見た後、落ち着くまで休んでいなさいとベッドに案内してくれた。
普段は頑丈な方で、保健室に来ることすら禄にない。だからここのベッドなんて初めてだ。といっても、嬉しいものじゃないけれど。
ただただ頭が重くて、横になるとすぐに意識が遠くなった。そのままどのくらい眠っていただろう。
ふと、人の気配を感じ、俺は重い瞼を開いた。
「…先生?」
呼んでみるが返事はない。どうやら部屋にいないようだ。その代わりに、仕切りで区切られた隣のベッドで誰かが動いた。
ああ、隣にも人がいるんだ。いつ来たんだろう。気づかなかった。
何か声をかけようかと思ったが、具合が悪いから保健室に来ているのだ。誰かも判らない相手に話しかけられるのは好ましくないだろう。そう思い直し、もう一度眼を閉じかけたところで、隣から呼びかけられた。
「…そっちに、何か、温かな物はない?」
女子の声だ。具合が悪いせいだろうけれどやけにか細い。その声音が、何やら温かい物を欲しがっている。
冬場ならストーブを出すのかもしれないけれど、今はまだ秋の半ばだ。暖房器具なんて置かれていない。
周囲を見回したが、温かいと断定できる物は何もなかった。
「すみません。温かい物と言われても、特にそれらしい物は…」
相手の声に威圧感はないのに、知らず口調が敬語になる。申し訳なさも凄まじい。
何でもいいから渡せる品がないだろうか。そう思い、もう一度周りを見ようとした時、仕切りの向こうから手が覗いた。
透き通るようなという表現がぴったりの、真っ白な手だった。指が長くてほっそりしている。その手のひらが俺の方を向いた。
「温かい物をちょうだい…何もないならこの手を握って」
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