夢の続き

2/5
220人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「おまえ、避妊しなかったのか?」 二人が異口同音に俺を責めた。 職場の休憩時間は、軽トラックの荷台で弁当を掻き込むことになっている。 安西さんと香坂さんはコンビニ弁当。俺は……地味子の手作り弁当だ。 「まあ、はい。しませんでした。着けなくていいって言われたから」 今思えば、あれは地味子の罠だった。 それなのに、ホイホイ喜んだ俺が浅はかだった。 「バカだなあ」 先輩たちの呆れた表情に俺は目を伏せた。 そんなことは言われなくても身に沁みてわかっている。 でも、あの時の俺にはあの誘惑に抗う術はなかった。 リンとはいつも避妊なんかしていなかったから。 地味子をあいつの身代わりにした時点で、避妊しないのは決まっていたも同然だった。 「で? 妊娠したのか?」 「まだわかりません。2~3週間経たないとはっきりしないらしくて」 地味子の言い分を鵜呑みに出来なくてネットで検索したが、やはりそう書いてあった。 つまり、この宙ぶらりんの状態があと3週間続くということだ。 もしも、妊娠していたら俺は本当に地味子と結婚するのか? 未だに現実とは思えない。まさに悪夢。 「まあさあ、その時は堕ろせばいいよ。金が足りなかったら、俺らも出してやるから」 安西さんがこともなげに言った。 「いや。そうなったら、ちゃんと責任は取ります」 気づけば俺はそう宣言していた。 そうだ。これは俺の意地だ。 俺を身ごもったお袋に、妻子持ちのあの男は堕胎しろと言ったんだ。 俺はあの男と同じことをしたくない。 「好きでもないのに結婚するのか? それはおまえの自己満足であって、リンカちゃんを幸せにすることにはならないだろ?」 香坂さんは正論を口にした。 「幸せって何ですか? リンカは俺と結婚したがっている。二人で子どもを育てていくことを望んでいる。だから、俺はその望みを叶えてやるんです。子どもが出来たら、俺もリンカを好きになるかもしれない」 俺の希望的観測。 今まで、あいつ以外の女なんて愛せた試しがないのに。 もしかして、俺は一生地味子をあいつの身代わりにしていくのかもしれない。 それでもいいと思った。 地味子に気づかれなければ、俺も地味子も幸せでいられる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!