220人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「おまえ、避妊しなかったのか?」
二人が異口同音に俺を責めた。
職場の休憩時間は、軽トラックの荷台で弁当を掻き込むことになっている。
安西さんと香坂さんはコンビニ弁当。俺は……地味子の手作り弁当だ。
「まあ、はい。しませんでした。着けなくていいって言われたから」
今思えば、あれは地味子の罠だった。
それなのに、ホイホイ喜んだ俺が浅はかだった。
「バカだなあ」
先輩たちの呆れた表情に俺は目を伏せた。
そんなことは言われなくても身に沁みてわかっている。
でも、あの時の俺にはあの誘惑に抗う術はなかった。
リンとはいつも避妊なんかしていなかったから。
地味子をあいつの身代わりにした時点で、避妊しないのは決まっていたも同然だった。
「で? 妊娠したのか?」
「まだわかりません。2~3週間経たないとはっきりしないらしくて」
地味子の言い分を鵜呑みに出来なくてネットで検索したが、やはりそう書いてあった。
つまり、この宙ぶらりんの状態があと3週間続くということだ。
もしも、妊娠していたら俺は本当に地味子と結婚するのか?
未だに現実とは思えない。まさに悪夢。
「まあさあ、その時は堕ろせばいいよ。金が足りなかったら、俺らも出してやるから」
安西さんがこともなげに言った。
「いや。そうなったら、ちゃんと責任は取ります」
気づけば俺はそう宣言していた。
そうだ。これは俺の意地だ。
俺を身ごもったお袋に、妻子持ちのあの男は堕胎しろと言ったんだ。
俺はあの男と同じことをしたくない。
「好きでもないのに結婚するのか? それはおまえの自己満足であって、リンカちゃんを幸せにすることにはならないだろ?」
香坂さんは正論を口にした。
「幸せって何ですか? リンカは俺と結婚したがっている。二人で子どもを育てていくことを望んでいる。だから、俺はその望みを叶えてやるんです。子どもが出来たら、俺もリンカを好きになるかもしれない」
俺の希望的観測。
今まで、あいつ以外の女なんて愛せた試しがないのに。
もしかして、俺は一生地味子をあいつの身代わりにしていくのかもしれない。
それでもいいと思った。
地味子に気づかれなければ、俺も地味子も幸せでいられる。
最初のコメントを投稿しよう!