夢の続き

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中学3年の頃、俺はいわゆる不良だった。 貧しいシングルマザー家庭という環境を恨んで、必死に俺を産み育てて来た母親に反抗していた。 悪い仲間と夜の街を徘徊して、酒とタバコと女を覚えた。 その女がリンだった。 同い年で同じような境遇の俺たちは激しく惹かれ合った。 家も学校も社会もどうでもよかった。 リンさえいてくれたら。 なのに、リンは突然姿を消した。 親に連れ戻されたらしいということはわかったが、リンがどこの誰なのかさえ俺は知らなかった。 仲間たちも名字さえ知らなかったから、探しようがなかった。 リンという名前だって本名だったかどうか怪しい。 すべてが空しくなった俺は抜け殻のようだった。 俺がまっとうになれたのは安西さんのおかげだ。 同じグループにいた安西さんが抜ける時に俺も一緒に抜けさせてくれたから。 別に暴力団じゃないが、一度仲間になると抜けるのは至難の業で。 だから、俺は今でも安西さんには頭が上がらない。 「はい、お弁当。今日もお仕事、気をつけてね」 とび職の俺は毎日体を張って稼いでいる。 だから、こんな風に愛情たっぷりの弁当を作って俺の体を気遣ってくれる女と暮らすのは幸せなんだ。 あの熱海の旅行から帰った翌日、地味子は俺の家に現れて当然の如く住み着いた。 俺は毎晩、体を重ねて地味子ではなくあいつの名を呼ぶ。 俺が愛しているのはリンで、リンカじゃない。 なのに、ふとした瞬間に地味子が愛しく思えたりする。 一緒に暮らしているから、情が移ったのか。 俺は自分の気持ちの変化に戸惑っていた。 地味子は優しい。 こんな俺のどこがいいんだか知らないが、心から愛してくれている。 それぐらい俺にだってわかる。 子どもが出来ていなかったら、俺と地味子はどうなるのか。 そっちの方が気がかりになっている自分に気づいた。 そして、3週間が過ぎた。 「妊娠はしていませんね」 診察室で女医があっさりと告げた。 俺の胸を襲ったのは安堵なのか失意なのか。 横にいる地味子は明らかにがっかりした様子でうな垂れた。 「残念だったな。でも、また次、頑張ろう」 待合室で会計待ちをする地味子に俺は声を掛けた。
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